ケリー基準の計算と限界
勝率の仮定とオーバーベット
執筆・監修:梅 陵真(ANCY'S BRIEFING)
ケリー基準は、勝率とオッズを仮定して資金配分を考える数式です。本稿では導出、配分を増やしすぎた場合の挙動、推定誤差、複数馬券への拡張を説明します。競馬では勝率が既知ではないため、計算結果と実際の判断を分けて読むことが出発点になります。
内容更新: · 計算例と確認手順を更新しました。
1. ケリー基準が最大化するもの
ケリー基準は、勝率と払戻条件が分かっている反復試行で、資金の対数の期待増加を最大にする考え方です。1回の期待利益を最大にすることとは目的が異なります。以下では勝敗が独立で、確率とオッズが一定、借入れや追加費用がなく、資金を細かく分割できると仮定します。
G(f) = p log(1 + bf) + (1 − p) log(1 − f)
p は勝率、b は賭け金を除いた純利益倍率、f は現在資金に対する配分比率です。日本式の払戻倍率を O とすると b = O − 1。0 ≤ f < 1 の範囲で G を最大化する内点解は f* = p − (1 − p)/bです。負の解が出た場合は、賭けない選択を含む制約の下で f = 0 となります。
例えば p = 0.55、b = 10/11 を仮定すると f* = 0.055、すなわち5.5%です。これは入力した勝率が正しい場合の計算結果です。競馬の真の勝率は観測できず、モデルの自信度をそのまま p に入れることはできません。
2. オーバーベットで対数成長率が下がる理由
次の表は勝率60%、払戻倍率2倍(b = 1)という架空の試行です。成長係数は exp(G) であり、毎回この倍率で資金が増えるという意味ではありません。短期間の結果は勝敗の並びによって変わります。
| 資金に対する比率 f | 期待対数成長率 G | 幾何平均の成長係数 |
|---|---|---|
| 5%(1/4ケリー) | 0.008757 | 1.008795 |
| 10%(1/2ケリー) | 0.015042 | 1.015156 |
| 20%(フルケリー) | 0.020136 | 1.020340 |
| 30%(最適値を超える) | 0.014749 | 1.014858 |
| 40%(ケリーの2倍) | -0.002447 | 0.997556 |
| 50%(負の対数成長) | -0.033980 | 0.966591 |
この例の最適値は20%ですが、40%では G がすでに負になります。「ケリーのちょうど2倍で成長ゼロ」は一般に厳密な等式ではなく、小さな有利さの近似で現れる目安です。また最適値を少し超えただけで必ず破産するわけではありません。全額を投じれば最初の敗北で資金を失い、一定割合を投じる場合も連敗による大幅な減少は起こり得ます。
3. フラクショナル・ケリーと推定誤差
算出した f* に0より大きく1より小さい係数 c を掛けるのがフラクショナル・ケリーです。配分を小さくすると1回の資金変動は小さくなりますが、誤った勝率推定を正しくする効果はありません。推定した期待値が正でも、実際には負という場合があります。
上の仮定ではハーフ・ケリーの対数成長率はフル・ケリーの約74.7%、クォーターでは約43.5%です。「約75%」「約44%」はここでは式から確かめられますが、あらゆる勝率・オッズに共通する厳密値ではありません。資金が半減する確率も、試行数・停止条件・確率モデルを定めなければ計算できません。
Busseti・Ryu・Boyd「Risk-Constrained Kelly Gambling」は、対数成長の最大化と資金下落の抑制を別の問題として扱います。この理論は、当サイトの任意の配分比率が安全または最適であることを証明する資料ではありません。
4. 同一レースの複数馬券へ拡張する場合
同一レースの単勝は通常、勝ち馬が1頭という排他的な結果です。一方、ワイドや複勝では複数の買い目が同時に的中する場合があります。単独のケリー式を買い目ごとに計算して足すだけでは、総配分や損失の重なりを適切に扱えません。
各結果 s の確率を pₛ、結果 s で買い目 j の賭け金1に対して戻る金額を Rₛⱼ、配分を fⱼ とすると、資金倍率は 1 − Σfⱼ + ΣRₛⱼfⱼです。その対数を pₛ で加重し、fⱼ ≥ 0、Σfⱼ ≤ 1 などの制約下で考えます。ここでも全結果の確率が必要です。
同時購入数で機械的に割る方法や、予算の10〜15%を別シナリオに割り当てる方法は設計上の目安です。最適配分を保証する解ではありません。追加購入時には既存の馬券も含めて計算し直す必要があります。
5. 勝率を5ポイント変えると、配分はどう変わるか
| 仮定する勝率 | 期待回収率 pO | フルケリー | その1/4 |
|---|---|---|---|
| 45% | 90% | 0% | 0% |
| 50% | 100% | 0% | 0% |
| 55% | 110% | 10% | 2.5% |
| 60% | 120% | 20% | 5% |
推定55%から50%に変わるだけで、計算上の配分は0になります。55%という入力の根拠を検証していなければ、1/4に縮めても優位性の根拠は増えません。オッズの記事では、確率と倍率の両方を動かして期待値の符号が変わる範囲を確認します。
6. 比率を円に直すとき、切り上げで予算を超えない
ここからも仮想例です。生活資金と分けた検討用予算が10,000円、上の1/4ケリー2.5%、別に決めた1レース上限が1,000円なら、式による額は250円です。100円単位に切り下げる方針なら200円、総予算の2%になります。残額を使い切る必要はありません。
| 検討用の総予算 | 2.5%の計算額 | 100円単位で切り下げ | 実際の割合 |
|---|---|---|---|
| 10,000円 | 250円 | 200円 | 2.0% |
| 3,000円 | 75円 | 0円 | 0% |
3,000円のケースで「最低100円だから」と切り上げると3.33%になり、決めた2.5%を超えます。また、1レース予算1,000円の2.5%と、総予算10,000円の2.5%は別物です。式のfは総予算に対する割合であり、買い目ごとに同じ割合を重ねると合計の上限を超える場合があります。
7. 連敗した場合の残額を先に計算する
| 毎回の割合 f | 計算 10,000×(1−f)¹⁰ | 10連敗後の残額(約) |
|---|---|---|
| 2% | 10,000×0.98¹⁰ | 8,171円 |
| 5% | 10,000×0.95¹⁰ | 5,987円 |
| 10% | 10,000×0.90¹⁰ | 3,487円 |
これは連敗の起こる確率を示した表ではありません。同じ的中率でも資金の減り方が配分で変わることを確認するものです。実際には100円単位や購入停止の判断があるため、残額はこの通りにはなりません。損失を取り戻すために割合を増やすと、この表とは別の運用になります。
ケリー計算機で式を確認し、このページの表で推定誤差と金額への変換を点検できます。
参考文献・出典
- Busseti・Ryu・Boyd「Risk-Constrained Kelly Gambling」 — 対数成長、下落リスク、配分制約の理論。
- JRA「具体的な払戻計算式」 — 払戻倍率と券種ごとの制度。
本稿は競馬の制度や分析の考え方を説明する記事で、的中・利益を保証するものではありません。馬券は20歳以上の方が、生活に支障のない範囲で、ご自身の判断と責任のもとで購入してください。