執筆・監修:梅 陵真(ANCY'S BRIEFING)
シナリオ別の馬券配分
「非相関ヘッジ」の考え方と限界
本線と異なる展開を想定して買い目を分けると、損失の出方はどう変わるのでしょうか。本稿では払戻率、ケリー基準、シナリオ分けの考え方を整理し、公開台帳のオークス1戦を例に、その効果と限界を説明します。
最終更新: — 出典・数値の前提と本文を見直しました。
1. 払戻率と個別の期待値を分ける
JRAの設定払戻率は券種によって異なります。下表は通常の設定で、払戻対象総額の計算には同着・返還・特別な払戻施策・WIN5のキャリーオーバーなどの扱いがあります。単純な「売上×払戻率」は制度を概観するための説明です。
| 券種 | 通常の設定払戻率 |
|---|---|
| 単勝・複勝 | 80.0% |
| 枠連・馬連・ワイド | 77.5% |
| 馬単・3連複 | 75.0% |
| 3連単 | 72.5% |
| WIN5 | 70.0% |
これは購入者全体への配分の仕組みであり、個々の馬券の回収率を固定する数字ではありません。個別の期待値を見積もるには、的中確率と確定払戻倍率の両方が必要です。
2. 本命・大穴バイアスの使える範囲
本命・大穴バイアスとは、低確率の大穴が相対的に買われすぎるなど、確率と価格の対応に偏りが見られる現象です。Snowberg・Wolfersの研究は、その説明として確率の捉え方の歪みを検討しています。海外の研究結果を、そのまま日本の特定券種・オッズ帯の利益に置き換えることはできません。
「本命が1.1〜1.2倍なら必ず穴の期待値が上がる」「人気薄は割安」とは判断できません。払戻2倍なら損益分岐の勝率は50%、1.2倍なら約83.3%という計算はできますが、その馬の実際の勝率がいくつかは別に推定する必要があります。
3. ケリー基準と予算の区別
単一の二値結果では、純倍率 b、勝率 p、敗北確率 q = 1 − p に対し、期待対数成長率は G(f) = p log(1 + bf) + q log(1 − f)、内点解は f* = (pb − q)/bです。借入れをしないなどの制約も合わせて考えます。詳細はケリー基準の記事に整理しました。
f* を超えると想定上の成長率は最適値から下がりますが、「超えた時点で必ず破産」は誤りです。また「一撃の馬券は20%以内」「保険は10〜15%」は当サイトが用いてきた配分ルールで、ケリー式から一律に導かれる比率ではありません。レース予算に対する割合と、生活資金を除いた全体の予算に対する割合も区別が必要です。
4. 本線・攻め・保険を分ける目的
| 区分 | 記事内での役割 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 本線 | 中心の展開を想定した組み合わせ | 推定確率とオッズの前提 |
| 攻め | 異なる評価や高い払戻を想定した組み合わせ | 人気薄という理由だけで割安と決めていないか |
| 保険 | 本線が外れる展開を考えた組み合わせ | 本線と同時に外れる結果、追加費用、的中時の総払戻 |
別の展開をカバーする馬券を加えても、購入費は増えます。保険だけが的中しても総購入額を回収できない場合や、すべて外れる場合があります。配分先を増やすだけで収益性が改善するわけではありません。
5. 「非相関」と呼ぶ際の注意点
前残りを本線にするなら差しが届く展開も考える、というのが本稿のシナリオ分けです。ただし、反対の展開を想定することと、統計的な相関がゼロであることは同じではありません。相関ゼロも独立を意味しません。独立・無相関・負の相関は区別して扱います。
同一レースの馬券は着順を共有します。脚質の異なる馬を選んでも、同時に外れる可能性は残ります。分散やシャープレシオの改善を述べるには、各決着での損益分布と購入額を比較する必要があります。本稿にはその検証結果がありません。
6. 公開台帳のオークス1戦を読む
公開台帳の2026年5月24日オークスは、設定購入額1,000円、払戻1,150円、回収率115%です。当該レースの記事には本命8着とワイド⑫−⑯の的中を記録しています。これはサイト上の予想シミュレーション1戦の収支です。
この例は、本命が好走しない場合にも別の買い目が的中し得ることを示します。一方、別シナリオを加えなかった場合との同条件比較や、継続的な全損率の低下は検証していません。平安Sなどの振り返りも含め、外れた事例と費用を一緒に読む必要があります。
7. 配分の効果を確かめるには
検証するなら、対象期間とレースの選び方を先に固定し、同じ予算で「本線のみ」と「別シナリオを含む配分」を比較します。回収率だけでなく全損した回数、最大損失、未購入の選択、オッズ変動も残します。結果を見てから買い目を足した計算は、当時の予想実績とは分けます。
公開台帳の結果を読みながら、どの想定が外れたか、保険にいくらかかったかを確認するのが本稿の使い方です。配分の工夫だけで払戻率の差や予測誤差が消えるわけではありません。
参考文献・出典
- JRA「具体的な払戻計算式」 — 券種別の設定払戻率。
- Snowberg・Wolfers「Explaining the Favorite-Longshot Bias」 — 市場の偏りに関する研究。サイトの配分実績の根拠ではありません。
- Busseti・Ryu・Boyd「Risk-Constrained Kelly Gambling」 — 資金配分と下落リスクの理論。
- 当サイトの公開台帳 — オークスの設定購入額・払戻。
本稿は競馬の制度や分析の考え方を説明する記事で、的中・利益を保証するものではありません。馬券は20歳以上の方が、生活に支障のない範囲で、ご自身の判断と責任のもとで購入してください。